別れた彼女について(2)

彼女についての記録の続き。

 

渋谷で晩御飯を食べることになった。

どんな人かわからなかったが、とりあえずおしゃれな洋食屋さんを予約した。

これが最初のデートだった。

 

可愛い人だった。都心ではないが、東京生まれ、東京育ち、都内の大学に通う二十歳の学生だった。

そんな人と渋谷でお酒を飲みながら、美味しい料理を食べて、俺も大人になったなあと感じた。彼女と出会う2年ほど前には抑うつ双極性障害で休職するほどだった。

 

それから比べると、最近はいい感じに生活できている。そういう事を考えているというのは、あの日、そこまで彼女に夢中だったわけじゃあないかもしれない。一歩引いたところから、自分と彼女を観察していたような気がする。

 

彼女は声優のラジオをよく聞くらしいことがわかった。現実的な話はともかく、声優という仕事にも興味があるらしい。 私もアニメを見たりするので、そのへんでは共通の話題がありそうで安心した。

三木眞一郎が好きらしい。特にハガレンマスタングは良かったと言っていた。

 

話す姿が可愛らしかった。

 

気がつくとお互いが現在どこに住んでいるかという話になった。

私は都内の底辺シェアハウスに住んでいた。地名だけは良さそうなので、彼女はそこを格好いいと行ってきた。

私は何度も「ひどいシェアハウスなんけどね」と付け足した。

彼女の方は渋谷から1時間以上もかかる実家に暮らしているらしかった。

 

遠いな。通学ルートだとは言え、そんな遠くからここに来てくれたのかと思った。

 

まだまだ一緒に居たかった。一応私も大人であり、近くにホテルが複数件あることも把握していた。

 

迷いつつ、とりあえず洋食屋をでて、駅に向かう。

 

途中はクラブ街だった。酒に酔いお起きた声で話している人、ネオン、クラブの入り口に並ぶ列、ときおり行き交う車。

そんな中を駅を目指して、二人で手を繋いで歩いた。

邪な期待半分、ちゃんと家まで返さないといけないという使命感半分。

 

駅が見えてきた。

 

彼女を改札まで見送った。最後までアレコレと考えていた。

駅構内の柱などで消えては現れる彼女の後ろ姿をずっと見送っていた。

 

幸福であった。背伸びしていたが楽しい時間だった。